ある日、森の中

思ったこと、考えたこと、調べたこと、経験したこと

「死産・流産 母親に必要なケアは」(NHKおはよう日本)から調べたり思ったりしたこと

NHKおはよう日本」で死産・流産のケアについて特集していたらしい。見たかった。

www.nhk.or.jp

結論としては「すべての人に適切なケアが必要」というものですが、どうすることが「適切なケア」なのかということは国内での共通理解はまだないらしい。

アメリカ・イギリスでは、産後に医療機関から必要に応じて、専門機関や支援団体につなぐ仕組み(ガイドライン)があるらしい。

専門機関というのは精神科や心療内科やカウンセリングという理解で良いのだろうか。アメリカでは日本のような保険制度ではないようなので、紹介された先がどのくらい使いやすいものなのかわからないけれど、でもまずは体制が整っていることは必要だと思う。

日本でのケアのあり方を研究している人も紹介されていた。

「親子の絆を確認する」ケアの方法を提唱したのは、静岡県立大学の太田尚子教授です。
流産や死産を経験した母親を長年研究してきました。
例え死産であっても、生きている子どものように母親として接すれば、次第に愛情が深まり、母親である自覚が生まれるといいます。
その上で、太田教授はその「自覚」こそが、前向きになれる力だと示しています。

静岡県立大学 太田尚子教授
「私が母親になったって、その時に実感できる瞬間だと思います。
母親になることの、その一歩につながっていく。
そして前に進んでいく。」

 

この太田尚子教授という方は母親支援の研究論文を出していた。

 

太田尚子(2006)死産で子どもを亡くした母親たちの視点から見たケア・ニーズ 日本助産学会誌 20(1), 16-25.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjam/20/1/20_1_1_16/_pdf/-char/ja

 

「緒言」に、周産期喪失について、「ガイドラインの翻訳はなされているものの、ケアの統一見解はなく、これまで助産教育でも必須の学習項目とはなっていなかった」とあって、たまげた。妊娠の15%が流産、22週以降の死産は1%などと聞くけど、メンタル面でどう対応するかは教育段階で必須項目じゃないのか。身体のケアやサポートで手一杯なんだろうか。

 

この論文で、子どもを亡くした母親14名のインタビューから明らかにされているケア・ニーズの【コアカテゴリ】とそれに含まれるカテゴリは以下の通り。

【母親になることを支える】

希望するだけ子どもに会うこと・別れることを支える

生きた証を残す思い出作り

火葬と供養を支える

子どもが生きているかのような扱い

【悲嘆作業を進めることを支える】

子どもや出来事の話の引き出しと傾聴

泣いていいことの保証と泣ける環境

心の痛みを助長させない環境

退院後の心のサポートと情報の提供

母親を支援できるように家族を支える

【希望を引き出して意思決定を支える】

(含まれるカテゴリなし) 

 

どのカテゴリをお題に出されても私も何か話せそう。そして、どのカテゴリも病院でじゅうぶんなケアが得られたかと言われると、病院全体としてはそうとは言えないが、個々の看護師さん助産師さんで見ると、サポートしてもらえて良かったなと思う人もいた。どの支援にもありがちだけど、個々の技量に任されている、ということだと思う。私の場合、積極的に話を聞いてくれるようなことはなくても大丈夫だったけれど、情報と選択肢は欲しかった。情報と選択肢なら、個々の技量は関係なくても提供できるのではないだろうか。

 

【母親になることを支える】に含まれるカテゴリは、病院から十分なサポートがあったとは私は思えないけれど、個人的に「ああ、私、親かもな」と思った瞬間はあった。

出産後、歩いて個室まで移動できず、車椅子で運んでもらって、赤ちゃんと夫と3人になった夜のこと。夫が赤ちゃんを抱っこしていて、赤ちゃんの鼻から血が出てきたことがあった。抱っこや動かす角度によって鼻から血がでてきてしまう状態だった。私は「痛い眠い悲しい疲れたもう無理」とベッドに横になっていたけれど、抱っこで両手がふさがった夫に「血が出てきちゃった」と言われた時、何のためらいもなく起き上がって赤ちゃんの顔を拭きに行けた。痛いとか眠いとかは関係なかった。

これだけが、私が赤ちゃんと接する中で感じることができた、親になった感だ。痛みに耐えてこそみたいなことは思わないし(無痛分娩だったし)、世のお母さんたちは積極的に自分の時間を確保することが重要だと思っているけれど、私にとっては、「自分よりも優先することがある」ってこういうことかも、と感じられた貴重な瞬間だった。

ほんのちょっとのことだったな、と思っていたけれど、太田尚子教授のコメントに合わせて考えると、この「『ああ、私、親かもな』と思った瞬間」が、私が前を向いていく力になっているのだと信じたい。一緒に過ごした16時間の中で、この瞬間をキャッチできたのは運が良かったのかもしれない。

そして、どの人もなんとか前を向いていけるように、サポートの体制が整ってほしい。まずは情報提供、そしてできれば環境づくりがあるといい。