『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』に沿って教育できたらすごい
『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』を読みました。
国際セクシュアリティ教育ガイダンス――教育・福祉・医療・保健現場で活かすために
- 作者: ユネスコ,浅井春夫,艮香織,田代美江子,渡辺大輔
- 出版社/メーカー: 明石書店
- 発売日: 2017/06/15
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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この『ガイダンス』は、
・UNESCO(国連教育科学文化機関)
・UNAIDS(国連合同エイズ計画)
・WHO(世界保健機関)
など世界的な機関と多数の専門家によって作成されたものです。2009年には英語で発行されていたようですが、日本語版は2017年発行でした。少し間があいていますね。
2部構成になっていて、第1部が「セクシュアリティ教育の論理的根拠」として、『ガイダンス』作成の目的、背景が述べられ、セクシュアリティ教育の影響に関する研究レビューが紹介されています。研究に基づいて、必要性を述べているところに価値があると思います。
効果的なプログラムが可能にすると示していることとして、次のことが挙げられています。
・誤った情報を減らすこと
・正確な知識を増やすこと
・ポジティブな価値観と態度を明らかにし、それを強めること
・正しい情報に基づく意思決定とそれに基づく行動のスキルを高めること
・ピアグループや社会規範についての認識を向上させること
・親あるいは信頼できるおとなとのコミュニケーションを促進すること
もう少し細かく見ていくと(第4章)、「性的行動への影響」「コンドームと避妊具の使用への影響」「性感染症、妊娠、出産の割合への影響」などが分析された結果が示されています。研究数の限界も述べられてはいますが、概ね、プログラムの3〜5割はポジティブな結果を示し、ほかは影響はなかった(悪化させなかった)、ということだそうです。
つまり、きちんとプログラムにされた教育を行うことによって、性行動が早まったり、リスクが高まったりすることは今のところ示されていない、ということです。
ただ、優れた実践の共通点として挙げられている内容を見ると、
- 少なくとも12コマ以上の実践プログラムであること
- 何年間かにわたって連続的に行われる授業を含んでいる
- カリキュラムを実施するための能力とやる気のある教育者を選ぶ
- 教育者に質の高い研修を提供する
- 継続的な管理、指揮、監督を提供する
とされていて、日本の中でそんなことできるのか…とつい思ってしまいました。
でも、取り入れられるところから取り入れていかないといけません。
第2部は「内容項目と学習目標」ということで、具体的なガイダンスの提供がされています。
大きな目標としては、以下の4つ。
- 子どもや若者が知りたいことや知る必要がある内容項目について、明確な情報を提供すること
- 子どもや若者に、性や社会関係に関する価値、態度、規範を探求する機会を提供すること
- スキルの習得を促進すること
- 子どもや若者が自身の行動に責任を持つことや、他者の権利を尊重するように勇気づけること
「価値、態度、規範を探求する機会の提供」や「スキルの習得」は、講義的な学習だけではできないので、どのように実践できるのか興味深いところです。
次に、対象年齢です。4つの年齢グループに分かれています。
- 5〜8歳
- 9〜12歳
- 12〜15歳
- 15〜18歳以上
学習目標が定義されている内容項目は、以下の6つの基本的構想(key concepts)に基づいて構成されているとのことです。
- 人間関係
- 価値観、態度、スキル
- 文化、社会、人権
- 人間の発達
- 性的行動
- 性と生殖に関する健康
それぞれの中で2〜5つの内容項目を含んでおり、それがすべて、年齢グループ別に異なる学習目標をもった学びになることが記されています。
とても細かい・・・! という印象です。
でも、私たちに身近なセクシュアリティということを学ぶにはこのくらい必要なんだなぁということを、どの項目を見ても納得します。
国語や算数などの教科学習だって、年齢に合わせて学ぶべき項目がたくさん立てられているのと一緒ですね。
今、できそうなこと
従来の意味での性教育や、対人関係に関する心理教育などを、年に1時間くらいは行っているところはあると思います。
それをがばっと増やすことはすぐには難しいと思うのですが、その1時間で取り組もうとしていることは、『ガイダンス』で示されている学習目標で言うとどこなのか、他に組み込めるところはないか、という視点で見てみるのはどうかと思いました。
教員個人、授業1コマ単位での取り組みです。
将来的には、年12時間以上、小学校〜高校に渡って、学べる機会を作る必要があると思います。