ある日、森の中

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性別違和の疫学

「疫学 epidemiology」とは、ある疾患等の発生や変動を明らかにする学問です。

性別違和関連では、どのくらい性別違和のある人がいるのか、とか、男女比がいろんな国で出されています。

今回は、このレビュー論文を読みました。

Zucker (2017) Epidemiology of gender dysphoria and transgender identity

Sexual Health, 2017.8.25

 

基本の確認

  • 有病率=ある一時点において、疾病を有している人の割合
  • 罹患率=ある一定期間にどれだけその疾病の人が発生したかを示す指標

なるほど。

 

子どもの性別違和

自己報告

対象:6年生~8年生 2,730人 サンフランシスコ(Shields et al., 2013)

 1.3%

保護者報告

CBCL項目のうち、異性になりたいという項目の結果

対象:6~12歳 1,822人 (Achenbach et al., 2001)

 未受診群 男子:1%未満  女子:1.2%

 受診群  男子:2.7%  女子:4.7%

CBCL項目のうち、異性のように振る舞うという項目の結果

 未受診群 男子:4.8%  女子:10.6%

男女比

男子の方が受診する人数が多いが、年齢が高くなるとその差は縮まる。

対象:カナダの子ども

 3歳時点 男子:女子 = 33:1

 12歳時点 男子:女子 = 1.12:1

 33倍って…多すぎやしませんかね。 

罹患率

数字はありませんでしたが、罹患率に影響を与え得るものが述べられていました。

保護者が子どもの主張をきいて、「うちの子はトランスジェンダーだ」と解釈すること。

性別違和の脱病理化・脱スティグマ化のために、保護者が専門医療機関ではなくメンタルヘルスケアを求めるようになること。

 この2つが罹患率に影響を与えるとのこと。

確かに、もう次第に存在が知られてきているので、子どもが「男の子はイヤ」「なんでランドセルが赤いの?」とか言いだしたら、パッと反応する保護者が増えてきたのかもしれません。ただ、子どものうちの性別違和の訴えは移り変わるという研究もあるので、即「じゃあジェンダークリニックへ!」「学校は対応を!」となるのは控えた方がいいこともあるのかもしれません。

その代わり…というか、ふたつめの(一般の)メンタルヘルスケアを求めるようになるというのは、医療機関ではなくスクールカウンセラーへ、みたいなことなのでしょうか。環境が整うことが大事、ということもあると思うので、学校など生活範囲の中で対応してもらえるといいのかなぁとは思いますが、結局、個別の配慮をするためにはまず診断を、ともなるのが現状でしょうか。

 

青年期の性別違和

高校生には、ダイレクトでもう少し幅のある質問がされています。

自己報告

対象:高校生 8,166人 ニュージーランド(Clark et al., 2014)

「自分をトランスジェンダーだと思う」に「はい」と回答:1.2%

「自分の性がよくわからない」に「はい」と回答:2.5%

対象:高校生 81,885人 ミネソタ(Eisenberg et al., 2017)

「自分をトランスジェンダークィア、性が流動的 genderfluid、曖昧だと思いますか?」に「はい」と回答: 女子:3.6%  男子:1.7%

8万人てすごい人数。

保護者報告

やはりCBCL項目を使った調査。

対象:13~18歳 1,388人 (Achenbach et al., 2001)

 未受診群 男子:0%  女子:1.2%

 受診群  男子:3.0%  女子:6.3%

全くのゼロということがあり得るんですね。男子は男子でありたいと思う(もしくはそのように表出したい/せざるを得ない)年代なのでしょうか。

しかし、一方で、

自己報告(CBCL)

対象:11~18歳 1,938人 (Achenbach et al., 2001)

 未受診群 男子:3.1%  女子:12.2%

 受診群  男子:4.3%  女子:16.1%

この年代で保護者報告はあまり意味がないみたいですね。 

男女比

今までずっと、男子>女子と言われてきましたが、最近の統計では性差が逆転しているという報告もあるそうです。

 2006年以前 男子:女子 = 2.11:1

 2006~13年 男子:女子 = 1:1.76 (Aitken et al., 2015)

 

オランダでも。

 1989~2005 男子:女子 = 1.41:1

 2006~2013 男子:女子 = 1:1.72

中には、男子:女子 = 1:6.83 という仰天の結果もあるとか(Kaltiala-Heino et la., 2015)。

日本はずっと、男子<女子だったので、なんでかなぁと思っていましたが、世界的にもそのような統計が出てきているんですね。

 

成人の性別違和

成人対象の調査結果では、医療機関受診した人に対するものが中心です。

手術を受けた人(ベルギー De Cuypere et al., 2007)

 男性 1:12,900  女性 1:33,800

改名した人(スウェーデン Dhejne et al., 2014)

 男性 1:7,750  女性 1:13,120

ホルモン療法を受けている人(アイルランド Judge et al., 2014)

 男性 1:10,154  女性 1:27,668

診断を受けた人(マドリッド Becerra-Fernandez et al., 2017)

 男性 1:3,205  女性 1:7,752

ただし、この辺はどの集団を対象に調査を行うかによって変わってくるとのこと。

ジェンダーアイデンティティ

診断云々ではなく、ジェンダーアイデンティティをどのように感じるか、ということの調査です。(左の数字がオランダ・Kuyper & Wijsen, 2014、右がベルギー・Caenegem et al., 2015)

男性も女性も両方感じる:男性 4.6%  2.2%

            女性 3.2%  1.9%

 

性別の違和感がある  :男性 1.1%  0.7%

            女性 0.8%  0.6%

医療機関受診ではなく、個人の感覚を対象とした調査だと、違和感というのは高い割合で出てくるのですね。

 

まとめ

性別違和の発生に関するレビュー論文でした。男女比が、幼少期は男子>女子、思春期以降男子<女子となる?というところはなかなか興味深いです。成人は男性>女性に戻りました。結局“正しい”数字って出せるんでしょうか。