ある日、森の中

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『Learn Better』を読んだ“だけ”ではよりよく学べるようにはならない

『Learn Better 頭の使い方が変わり、学びが深まる6つのステップ』(アーリック・ボーザー著、月谷真紀訳 英治出版 2018)を読んだまとめ。

結局は得た知識をいかに使っていくかということで、「よりよく学ぶ」ことができるということになる。知識や事実はどの人にも同じだけど、どう使うかは人によって違うはずだから、「よりよく何を学んでいくか」は変わってくるのだろう。ということで、このまとめは私にとってのこの本からの学びです。

 

イントロダクション

印象的だったのは、インターネット時代の知識や事実の位置付けについて。

しかし、事実情報を得ることは出発点にすぎない。学習に取り組む際には関係性を理解する、つまり原因と結果を見きわめ、類似性に気づくことも必要だ。とどのつまり、学習の目的はある事実や概念についての考え方を変化させることであり、学習にあたってめざすのは思考の体系を学ぶことなのだ。(p21)

 結局、調べりゃすぐわかるから知識はなくていい、などということはなくて、学ぶということの根幹が知識や事実ということのようだ。

 

第1のステップ 価値を見いだす Value

学ぶモチベーションを保つためには自分にとっての意味をその中に見つける必要がある。

人はこう感じるべき、こう考えるべきと指示されると、脅されているとか過剰に管理されていると感じかねないからだ。

それよりも、活動の意味を自分で見つける必要がある。つまり、価値は人から発して対象物に、個人から発して知識やスキルに反映されるものでなければならない。「学習することと自分自身の生活の間に、そういうつながりをつけるのが重要なのです」とフルマンは語った。(p39)

社会的ネットワークもモチベーションの一種であり、自分はどこにも属していないと感じる学生はモチベーションがかなり低く、一般的に学業もふるわない。具体的には、クラスに友達がいる学生は友達のいない学生よりテストの得点が高くなりやすい。(p56)

頭を働かせる「活動」にしていく必要があり、その良い例としてそろばんをイメージした計算(暗算)が挙げられていた。昔習っていたそろばんにはそんな効果があったのか。

私がこの本を読もうと思ったのは、どうすればよりよく学んでもらえるようになるのだろうか、という教える側の立場としての関心だ。

 

第2のステップ 目標を決める Target

学習の最初の段階では「プロセスをしっかり管理する必要がある」とのこと。

何を学習するか、学習するにはどのような計画を立てるべきか、の二点だ。(p86)

学習の遂行のために必要な感情として挙げられているのが「自己効力感」だ。

自己効力感は一般的な自信とは異なる。自尊心の問題ではない。限られた特定のタスクをやりとげられる、これからやろうとしていることで良い結果を達成できるという信念を核とする概念だ。(中略)あるタスクをやりとげられると信じていれば、努力を注ぎやすい。自己効力感が大きいほど、目標を達成し、結果に満足する確率も高まる。(p123)

つまり、教育する側にとっては、いかに「やりとげられると信じられる」課題を設定していくかということが重要ということだと思う。

 

第3のステップ 能力を伸ばす Develop

著者自身がバスケットボールを40代で習ったときの経験談がわかりやすく必要なことを示唆している。「モニタリング」と「フィードバック」だ。

モニタリングについては、減量と体重維持に必要な「食日記」と並べている。

なにがしかのスキルを伸ばすためには、今ある知識を知り、何を変える必要があるかを知らなければならないのだ。(p147)

適切な「フィードバック」は、学習者の不足を伝え、学習者自身に考えさせることを含む。適切なフィードバックをくれる人(先生)がいないのであれば、カリキュラムの改善や良い教科書を求める方が良いという。

では質の悪いカリキュラムとはどんなものか。フィードバックがお粗末で、練習問題と教科書は生徒に単純に答えを与えてしまい、思考を組み立てることを促さない。質の低い教科書はテーマの扱いが広く浅くになりがちで、一つのテーマでみっちりと練習を積むことができない。(p151)

しかし、良い教科書を見つけることも難しいよね。

 

第4のステップ 発展させる Extend

もっと具体的な例として、要約、つまりある概念を自分の言葉で言い換える行為を考えてみよう。学習という活動をしていると、一連の質問を自分に問いかけないわけにはいかない。「重要なのはどこか?」「この概念をどう言い換えできるか?」。このような問いかけは重要だ。もっとも大事な概念を要約することによって、その概念への理解が深まり、その概念に意味が生まれる。この行為は成果に明確なプラスの効果をもたらすことがわかっている。(p189) 

つまり、得た知識を自分なりに使ってみるということだと思う。その一例として「人に教える」ということの効果が挙げられているが賛成できる。相手が何を知っていて、どのように伝えれば良いか、自分なりに得た知識を組み立て直す必要があるからだ。一番身についているのは教師ということになる。学習者がお互いに教え合うというやり方をし始めると、内容はよく身につくようになるのではないだろうか。こうやって自分でまずは印象に残ったところを書き出してみるということだけでも、読んだだけの状態とはだいぶ違う(気がする)。

 

第5のステップ 関係づける Relate

リッチランドは長年にわたり数学から歴史まで幅広い学問分野を調査したすえにこの考えに至り、知識習得とは突き詰めれば知識構造同士のつながりを理解することである、と証明した。「高次思考力の土台にあるのは結局、関係性を推論する力なのです」。(p230)

「対象を丸暗記するだけではいけません」とリッチランドは語った。「効果的な学習を行うためには、原因、類似点、相違点を探すべきです」。(p231)

この本に書いてあることは、以前読みかけた『学生を自己調整学習者に育てる』という本に書いてあった内容と似ているなと思い、類似点や相違点を探そうと続きを読もうと思ったがなんだか集中して読み切れず、再度断念してしまった。モチベーションの問題だと思う。

 

第6のステップ 再考する Rethink

知っていると誤解してしまうこと、つまり「過信」の危険性を説明している。TEDトークのわかりやすさは私たちにわかっているのかわかっていないのかわからなくさせてしまうと述べている。

つまり自分がわかっているかどうかがわからないとしたら、わかっていない場合もそれがわからないわけで、当然ながら簡単に見えるものを人は勉強しようとしない。単純でわかりやすく見えるものに対して、人はあまり努力しない。(p282)

ということは、人に教えるときにあまりにもシンプルにわかりやすいように伝えてしまうと、その後の自己学習を妨げてしまうということか。だいたいわかったけど、詳細をもっと知りたいと思わせるというのが良い学びということだろう。

 

興味深かったところ

スマートフォンの良さと弊害についても述べられていた。知識をすぐに得られることは良いこと。しかし、何かに集中することには弊害があるという。

携帯電話は「あるだけで」集中力を減退させることがわかっている。つまりテーブルに置いたiPhoneが視界に入っているだけで、タスクへの集中力が低下する。(p319)

これは、スマホやPCが特異的にそうだということなのだろうか。それとも学習と関係ない、しかしネットにはつながることのないもの(たとえば派手なペンケースとか)も視界に入ることで集中力を低下させるのだろうか。元の論文を読まないとわからないのだろうな。